設計思考展開;DPD(Design Process Deployment) (その1)



 私が各所で展開する設計改革の取り組みにおいて、目的の機械を設計する設計者の設計思考を明確化し体系化する手法に、設計思考展開DPD(Design Process Deployment)と言う手法がある。この手法は私が最近提唱を始めた手法だ。元々はTQCの中から生まれてきた手法で、品質機能展開(QFD)という手法がある。この手法を応用し、発展的に確立してきた手法である。
 品質機能展開(QFD)は30年近く前に我が国で提唱された。その後10年ほど前、米国で評価され里帰りした観のある手法だ。この手法は、商品が求められる有るべき機能を徹底的に展開を行ない、その商品開発の中における設計の意図を具体的な定量値にまで落とし込む所に特徴が有る。
 この作業を行なう事で、設計者はその頭の中を体系的に整理する事が出来る。また複数の設計者がそれぞれの知恵を出し合う事で、それぞれの設計者が持つ思い込みや勘違い配慮不足などに起因する“漏れ”を防止する事が出来る。更に、その設計内容を審査するメンバーは的確に設計者の設計の意図を理解する事が出来、そのチェックでの“漏れ”を防ぐ事が出来る。更に後工程の物作りや検査等のスタッフも的確にその商品の設計の意図を理解でき、押さえるべき寸法や特性値を誤りなく把握する事が出来る。
 実際の商品開発において頻繁に発生する“手戻り”“後戻り”の原因の多くは、設計の段階における設計者の思い込みや勘違い配慮不足などによる“設計の漏れ”である。この傾向はどの製造業でも例外では無い。そしてこの漏れを防ぐ手段の一つが、本来なら品質機能展開(QFD)を用いることでかなりの問題解決ができる。
 しかしこの品質機能展開(QFD)は、元々は品質専門家側から要求された設計要件の展開手法である。このため、“設計者自身の頭の中を体系的に整理する事、また複数の知恵を出し合う事、それを的確に共有しあうこと、それぞれの設計者が持つ思い込みや勘違い配慮不足などに起因する“漏れ”を防止する事“などだけを目的とした場合に不都合が各所で起こった。目的以外の手間が掛かりすぎると言うのだ。それ以外にも、私が取り組む設計改革を阻害する問題が多発した。いずれも品質設計用途だけを考え編み出された手法の限界と思われる不都合だ。
 そこで私はDPD(設計思考展開)と言う手法を提唱し、この手法により上記目的を余計な手間を費やすことなく達成できるようにした。紙面の都合で本手法の詳しい解説は別な機会に譲る。だが上でも述べたように、この手法は品質機能展開(QFD)を応用し、発展的に確立してきた手法であることを重ねて述べておく。

DPD(設計思考展開)概要
 私の提唱するDPDがどのような手法かを、会員諸氏が活用できるであろう、必要最小限にかいつまんで説明をする。
 DPDは、元々TQCの中で生まれてきたQFD(要求品質機能展開)をそのベースにしている。しかし品質管理で用いる“赤尾式品質機能展開”はあくまでもその目的は“品質管理”である。私が理解しているこの手法の目的は「新製品開発の品質保証」である。当然新商品開発を行う上でこのポイントは極めて重要なポイントであり、このような目的で従来手法のQFD活用を、私は否定する物ではない。
 ただ私が推し進める「フロントローディング設計」に用いる手法としてはQFDにまともに取り組んでしまったのでは、問題がある。なぜなら設計の初期段階の極めて混沌とした試行錯誤段階でまともにQFDに取り組むには、余りにも不確定な要素がありすぎ、あまりに不明事項がありすぎるからだ。

表1 DPDはQFDと似て非なる物

 「フロントローディング設計」でほしい物は、整理された「設計意図」だ。設計者自身が、その頭の中を体系的に整理する事が出来ることがまずその第一の目的であるからだ。自分自身の頭の中を体系的に整理して、ビジュアルに振り返ることができると、設計者は極めて都合がよい。自分自身の考えの矛盾点見つけることができる。設計検討を不足している部分や詰めの甘い部分をもだ。ここに私の提唱するDPD(設計思考展開)は有効に活用できる。
 さらに、この展開を複数設計者が集まって用いると、お互いの考え方が明確に解る。お互いの設計意図を理解しあえる。またその結果、それぞれの設計者が持つ思い込みや勘違い、配慮不足などがお互いに明確に見いだすことができる。自分自身だけだと極めて難しい部分だ。そしてこれらに起因する“漏れ”を防止する事が出来るようになり、まさに問題を先送りしない設計の一角を攻略することが叶うわけだ。
 また複数の設計者の頭の中を体系的に整理して、ビジュアルに振り返ることができると言うことは、単に“漏れ”を防止するだけでない大きなメリットを生み出す。お互いの設計意図を認識し合い、お互いのノウハウやスキルが共通の土俵に提供されると言うことは、今までにない新しい発想を生み出されることになる。要するに“三人寄れば文殊の知恵”のビジュアル版である。このようにDPDには、商品開発に関わるあらゆる関係者の知恵を結集し、これまでにない新しい想像を物にするツールとしての役割など、設計者達にとってその活用の場面は限りなく存在する。
 DPDが生かされる場面は、設計担当者個人や設計チームのメンバーだけにとどまらない。設計審査を担うメンバーにとってもDPDは強力な武器になる。設計審査にかけられるテーマを、DPD結果を用いて説明を受けることにより、的確に設計者が描いた設計の意図を理解する事が出来るからだ。論理的に、体系立てられた説明は、審査を担うメンバーが行うチェックでの“漏れ”を大幅に減らす。また設計意図を十分理解できない状態での設計審査は、審査を担うメンバーがいくらベテランのエンジニア達でも、必要以上の遠回りを余儀なくされる場合が少なくない。なぜなら審査メンバーが、報告を行う設計者の意図を十分理解するまでの、すりあわせ的なやりとりがどうしても必要になるからだ。
 また私が設計改革を推進する製造業において、その設計審査に参加する審査メンバーは、設計上がりのベテラン技術者だけではない。生産技術や製造さらには営業や経理のスタッフも参加する。当然図面は読めないし、設計とは何かが十分理解できていないメンバーも参加する。このため、このようなメンバーに審査対象の設計内容を的確に理解させなければ、設計審査は成り立たなくなる。DPDはこのような場面でも威力を発揮する。部品の部分形状レベルまでその狙いと目的及び思考過程が事細かに展開されたDPDの展開シートは、設計部外者達にその設計意図を理解させることができる。さらにマイクロソフトエクセルなどでビジュアルに表示されたDPD展開シートはその効果を倍々増できる。
 さらにこのDPD展開結果は、商品開発の後工程でも大きな役割を果たす。物作りや検査等のスタッフは、DPD展開シートと図面をつきあわすことで、設計者から特別な説明を受けなくても、的確にその商品の設計の意図を理解できる。その結果、押さえるべき寸法や特性値を誤りなく把握でき、現場での微妙な塩梅付けへと結びついて行くことができるわけだ。


表2 DPDのメリット