CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

改めて問う、設計に役立つ設計支援ツールとは(その5)・・・設計現場においてその効率や質の向上を妨げているのは何?(後編)


設計現場においてその効率や質の向上を妨げているのは何?(後編)


二つ目は、“商品企画の質の低さ”の問題である。製品開発途上でコロコロと開発仕様が変わるような開発案件で、3つの“大きな無駄”を解消する事は、至難の業だ。

コロコロと開発仕様が変わる都度、本来なら設計作業は、振り出しに戻ってやり直しになる。ところが多くの製造業で、その商品の“発売予定日”が変更されることは、希である。と言うことは、当然設計出図期限は変更されないと言うことだ。どの時点で仕様変更があったかによって、設計側の難易度は変わるが、いずれにしろ無理をしてその設計作業を進めざるを得なくなる。

多くの場合、“設計案に様々な検討を加え”の部分を手抜きした“ヤッツケ仕事”に陥るケースがほとんどである。これでは、必然的に3つの“大きな無駄”を解消する事は不可能になる。

“商品企画の質の低さ”は、他にも大きな問題を生じさせている。筆者がこれまで行ってきた“現状診断”で、“ハズレの商品開発”を繰り返している製造業を数多く見かけた。そしてこの問題も、上記した“人”の問題につながってくる。

なぜなら、限られたメンバーで、数多くの開発案件をこなさなければならない設計部門に取って、人材をどのように配置するかは、極めて重要なポイントとなる。その案件毎の重要度で、それらに配置するメンバーも自ずと変わってくる。

ところが、結果として全く売れず、稼げなかった商品を、担当営業部門や一部上層部の声の大きさと政治力で、次々と重要案件として開発させられたら、設計部署のモチベーションは維持できなくなる。しかも技術的に難しい仕様を、短い開発納期で要求され続けたら、普通の設計者達なら嫌気がさすに違いない。

設計者のプライドとして、自分の開発した製品が、脚光を浴びることを常に目指しているはずだ。例え苦しい開発過程を経ても、その商品が成功したら、苦労は一瞬に吹き飛ぶ。しかし、開発仕様に全く齟齬の無い製品にも関わらず、発売してみたら“ハズレの製品”だったらどうだろ。

さらに、重要度の高い開発案件ほど、選りすぐりのメンバーが充てられるのは世の常で、他の開発案件を担う設計者の質は、自ずと低下してしまう。この結果、本来なら稼ぎ頭になるはずの商品が、設計品質がネックになり、売上も伸び悩み、しかも次々と発生するクレームがその利益を食いつぶすなど、笑えない現実が各所で生じていた。

21世紀を勝ち抜ける製造業の必須要件の一つとして、強い商品企画力があると筆者は考えている。限られた手持ちの駒(質の高い設計者に代表される設計リソース)の、最大有効活用が叶う開発態勢を確立できなければ、その製造業はいずれは脱落して行くと考えている。「弾も数打てば当たる」的な、旧態然とした、商品企画は許されない時代のはずだ。

そして筆者は、FS(フィジビリティースタディー)手法を提唱し、開発案件の選りすぐりと、開発仕様の質向上に、支援先の皆さんと日々取り組んでいる。



三つ目は、能書きでは、何処でも必須だと言っているのだが、ほとんどで巧くいっていないコンカレント開発態勢の問題だ。特にこの問題は、3つの“大きな無駄”の内、量産立上げ時に生ずる無駄の大きな原因になっている。筆者が知る限りでも、量産立上げ時に生じた無駄の内の8割が、これに起因していたケースもあった。

そしてコンカレント開発の不調は、量産立上げ時点で様々な行き違いを生じさせる、部品や素材の調達の不都合、開発途上における営業サイドからの開発仕様変更要求など、様々な不都合を引き起こし、3つの“大きな無駄”以外の無駄も生じさせる原因にもなっている。

詳しくは、拙著「コンカレントエンジニアリングによる設計の改革術」をお読み頂きたいのだが、コンカレント開発の考え方は、1970から80年代ごろの、強かった我が国製造業の製品開発態勢をベースにして提唱された考え方だ。TQCと総称された、企業若しくは事業総力戦での製品開発態勢をである。

そしてこの中では、事業に関わるあらゆるスタッフが、自己の役割の範疇を越え、お互いに協調し合うことによって、後工程で生ずる問題を、前もって潰し込む考え方を強く要求していた。具体的には、開発の進捗に従って逐次実施されるDRを通じて、物づくりのノウハウを、開発段階の設計内容に前もって織り込ませる事などである。

例えば、試作評価の後、物づくりの都合による製品形状の大幅変更が難しい部位などは、試作部品設計段階から物づくりの観点で、その試作部品が量産化されるときの作り方を考え、形状や仕様に織り込ませるなどの取組だ。

しかし、これもバブル期の急激に水ぶくれした態勢が原因なのだろうが、各所でこの文化が潰えてしまい、上記したような状況に陥っている。

「どうせ変わるのだから量産図面が出図されてくるまでは、真剣に開発途上の図面は見ない」とうそぶき、量産開始間際になって「これでは作れない、こんな寸法出せるわけ無いだろう!」などと居丈高に、設計変更を求めてくる例。「図面を見てもよく分らないから、物ができるまでは特にコメントはしない」と開発初期段階での設計内容には一切口出し無かったにも関わらず、「こんな形では売れるわけ無いだろう」「競合にこの機能が劣っている、仕様決定時点では言わなかったが、即刻開発仕様変更し設計をやり直してくれ」など、開発を振出し時点に引き戻さざるを得ないような問題を、生じさせている。

他にも、量産開始直前になって「この部品の調達ができなくなりました、設計変更をしてください」などの話は、最悪の極みである。

以上、3つの“大きな無駄”を撲滅する際に、重点を置いて取組むべき拙い点を三点挙げた。他にも、それぞれの状況に応じて、対応しなければならない拙い点はあるのだが、平均的な製造業では、この三点をターゲットに集中的に取り組めば、八割以上の無駄削除が叶うと、筆者の経験上確信をしている。