CAE/CAD/CAM CONSULTANT 有泉技術士事務所

機械工学の基本に忠実でないと、予測型設計など絶対に不可能!




本年年初、“フロントローディング設計にチャレンジしているのだが、CAEシミュレーションが巧く行かない“と言う相談に応えて、某大手製造業を訪問してその相談に乗ってきた。

内容的には直近数年行ったCAEシミュレーション内容を、それぞれの担当者に説明させ、何が拙いのかをアドバイスすることを、当初の目的としていた。

具体的には、解析対象機械構造の再確認から始まり、それに働く解析目的の物理挙動、その時の拘束条件などを、解析を担当した設計者やその上司達と一々確認して、説明を受けた解析モデルで定義してある荷重・拘束条件などと突き合わせ、その妥当性を自己認識させる取組みだ。さらに彼らが行った解析結果に対する評価と、実設計への折り込みを確認して、その妥当性を自己認識させる取組みだ。

そして殆どのケースで、解析条件やモデルを訂正させ、再解析を行わせ、その結果を彼らが従前に行った結果と突き合わせた上で、何が拙かったのかを、自己認識させる結果になってしまった。

因みに訪問した某社の事業部署が担当している製品は、電気・情報器機範疇のコンシューマ商品である。

さて当日の模様だが、世の中の多くが同様な体たらくのため、某社の対象部署で強い驚きを抱くことはなかったが、繰り返し説明されるCAEシミュレーションの出鱈目さに、思わず溜息を連発した。

極めて初歩的な例だが、例えば、対象製品の筐体に加わる、踏みつけなどによる強度予測モデルでは、荷重は筐体中心に集中荷重、拘束は踏みつけ反対面を完全固定という有様だ。これでは強力接着剤で底部を完全に固定し、筐体中心部を針先で90Kg~の荷重を掛けているモデルになってしまう。

安全目に診ると言う観点で、足裏の柔らかさや足裏の形まで表現しなくても良いが、せめて一定範囲に分布荷重を掛けるモデルであるべきだ。また踏みつけ反対面も床の上などでは、その接触面は横に滑るはずだ。底面を完全に固定してしまったのでは、底部には解析モデル的には、境界部分にしか変形(歪)は発生しない(よほどの厚肉でない限り)。一方底部が一定の法則で滑れるモデルであるならば、底部にもその構造や加重の状況により歪み分布が生ずる。実際製品の物理的挙動は、間違いなく後者のメカニズムの筈だ。

また駆動モータ加振周波数から、フレーム構造の固有振動数を避ける目的のモデルなどの、振動に関するモデルでは、対象構造の重さや剛性を、完全に崩しているモデルが多く見受けられた。理由は「解析が巧く流れない」「解析時間が異常にかかる」などの理由で、3次元CADモデルを、シンプル化した結果だという。モデルのシンプル化は大いに行って構わないのだが、固有値解析モデルで、重さと剛性の分布を、実際と全く異なる分布とする簡素化では駄目だ。

他様々な問題点を発見指摘したのだが、いずれも物理の法則・原理原則を逸脱したモデルを、平気で“予測モデル”として扱っていたところに、諸悪の根元がある。これでは、予測型設計を行うどころか、的外れ設計になってしまう。

「設計者向けCAEツール」なるモノが、3次元CADに付随して一般化すると、確かにCAEシミュレーションを行う人口は増えた。その操作もかつてのモノに比べれば、極めて簡便で、難しいことを知らなくても、淡々と条件さえ与えてやれば、シミュレーション結果を容易に得られるようになった。

しかしこのシミュレーション結果は、その解析条件で与えられたモデル条件の結果であり、実際の対象製品に生ずる物理的な現象とは、必ずしも一致しない。一致させるためには、実際の製品に働く荷重や拘束の条件、さらには材料などの条件が、物理的に完全に一致している必要がある。それ以外の結果は、全て嘘の結果と言っても過言ではない。

一方、CAEで用いられる解析モデルでは、実際の製品に働く条件を完全一致させる事は、また不可能であることが普通である。しかし物理的に矛盾のないよう条件や構造を簡素化し、実際に近い条件を与えたモデルを作ることは可能であり、昔からCAEツールを駆使してきた先人達は、このモデル化に命をかけてきた。そして嘘のモデルとはいえ、実際に極めて近い傾向や値を出してくれるモデルへと醸成して、それぞれの予測型設計に活用してきたのである。

私が各所で述べてきた、フロントローディング設計で、予測設計に用いる“雛形モデル”とは、まさにこのような段階を踏んで、醸成されてきたモデルに、さらに試験計測などを通じて、完璧に物理的な裏付けを付けた、モデルを指している。

いずれにしろ、予測型設計を実現しようと思ったら、物理や機械工学の基本に忠実であることが肝要である。

機械設計の本質を会得している諸氏には、釈迦に説法の話だが、「設計者向けCAEツール」なるモノが世に出回った以降、某社のような、考えられないような低レベルの話が、各所で頻発している。旧知のかつてのCAE使い手達の足下でも、このような不都合が生じていた場面に、遭遇したこともある。

会員諸氏も、皆さんの足下で、このような低レベルな不都合が生じていないか、改めて見直すと共に、生じさせないよう絶えず目配りをすることを、お勧めする。