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有泉徹の年頭所感2017(その1)



昨年は、世界が大きく変わるかもしれない予兆が起きた年だった。米国大統領選挙の結果である。

当初泡沫候補扱いだったドナルド・トランプが何と当選してしまったのである。

旦那のクリントン政権に対する関与や、オバマ政権での国務長官において行った、ヒラリー・クリントンの政策や言動に対して、毛嫌いしている米国人が極めて多いことに驚いた。さらにロシヤの関与も取りざたされる、私用メールを公務に使用した問題がウキリークスに暴露され、FBIの捜査が入ったのも大きな敗因であったのだろう。

それ以外にもトランプの勝因は、中流以下の白人層の強い閉塞感が、トランプ支持の大きなうねりを引き起こしたことを、まざまざと見せつけられた。

さてトランプの当選を受け、一部のテレビのコメンテーターなどは、世の末的なコメントを漏らしていた。しかし私は必ずしもそうは思わない。選挙戦までのトランプの暴言や、一方的な物言いは、ビートたけしや爆笑問題の太田光の様な物だと理解しているからだ。

しかし、トランプ大統領が4年になるのか8年になるのかは判らないが、何れにしろ我が国製造業が受ける影響は極めて大きな物であることは予測できる。

本稿では、これからの米国がどのような方向に動くのか、それに対してどのような手を打てばよいのかを述べてみたい。


トランプ流人事から読み解く国際社会及び我が国への影響

副大統領に確定しているインディアナ州知事のマイク・ペンスは、インディアナ大学のロースクールでJuris Doctorを受けた1959年生まれの弁護士である。

1988年及び1990年にインディアナ州第2区から下院議員に立候補したが落選、2000年初当選して州知事当選までの以降6期を務めている。尚当選までの間は、弁護士家業の他、選挙目的で地元のラジオ局でパーソナリティーを務めていた。

2012年にインディアナ州知事に当選し、翌年から州知事を務めており、日系企業誘致を熱心に行っていたために親日家と言う見方もあるが、上記パーソナリティーの例でも見て取れるよう、かなりの策士でもあるようなので安易に安心するわけには行かない。

自身が言うアイデンティティーは「キリスト教徒・保守主義者・共和党員」だそうであり、典型的な米国保守主義者と言って良かろう。貿易政策的には、トランプと違い自由貿易主義者のようである。

現在は政治経験が無い上に共和党・ワシントンに伝手を持たないトランプに代わり、政権移行チームの責任者として閣僚人事を取り仕切っている。次期副大統領が閣僚人事を仕切るのは、ジョージ・W・ブッシュ政権のディック・チェイニー以来であり、その影響力は決して少なくは無かろう。

何れにしろ、トランプ政権のキーマンであることには違は無く、対日政策にも大きく影響を持ってくるに違いない。

次に大統領首席補佐官には、RNC(共和党全国委員会)のラインス・プリーバス委員長が指名された。ラインス・プリーバスは1972年生まれの44歳と若い政治家である。38歳の時にウインスコン州の共和党委員長になり、2011年には共和党の全国委員長に就任している。妊娠中絶や同性結婚に反対しているやはり保守的な政治家である。彼が尊敬する政治家はエイブラハム・リンカーンとロナルド・レーガンだそうだ。

ラインス・プリーバスはライアン下院議長と近く、今後トランプ政権が押し進める政策を議会に協力をして貰う重要な立場を担うことになるのだろう。

一方米国の大統領特別補佐官とは我が国の官房長官を遙かに上回る、重要な役割を担い、大きな権限を与えられている。

その役割とは、大統領府全スタッフの統括、大統領が行う外交から法案策定までのあらゆる戦略の策定、大統領からの指示に対して大統領府のみならずあらゆる政府機関への着実な指示伝達、大統領が自ら決断を下すか代理で済ますかの判断及び会談予定の取捨選択及び日程調整、大統領に対する全方面での最高アドバイザーと言う、大きく分けて5つの役割を持つ。

その権限の大きさから、副大統領を超えホワイトハウスの影のナンバー2と言われることもある。しかし歴代の主席補佐官はその激務故か概ね2年程度で交代しているので、ラインス・プリーバスが同程度の期間だけ首席補佐官を務めるのであれば、その影響力は限定的であろう。外交・経済・対日本については全く未知数の人物である。

主席戦略官・上級顧問に起用されたスティーブ・バノンは、やっかいな人物だ。白人至上主義者の上、女性差別主義者であるからだ。さらにオルト・ライト運動に関与していると言われ、米国では極右にカテゴライズされる人物だと言われている(オルト・ライトとは白人至上主義者や人種差別主義者、宗教差別主義者などからなる政治運動・・白人でキリスト教徒でないと人間ではない的な・・)。

スティーブ・バノンは、1953年にバージニア州で生まれ、バージニア工科大学を卒業後ジョージタウン大学では安全保障論を専攻して修士号、バーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得している。その後海軍に勤務しペンタゴンの海軍作戦部長特別補佐官を務めている。海軍を退役後ゴールドマン・サックス勤務の後、WTAEニュースのアンカーを務めていたときに、ブライトバート・ニュースに引き抜かれ、現在までCEOを務めていた。

今回の大統領選では、トランプ陣営に有利な情報をブライトバート・ニュースで流して(トランプから資金提供を受けたという話もある)、選挙選を側面から支援した。2016年8月にはトランプ陣営の選挙対策本部最高責任者に就任している。

今回の主席戦略官・上級顧問への起用は、主席補佐官に選ばれたラインス・プリーバス同様に功労賞と捉えられている。

因みに主席戦略官・上級顧問は、大統領への取り次ぎや執務日程を決める役割を持つ。我が国への影響は、ペンタゴンの海軍作戦部長特別補佐官と言う経歴から、国防長官以上に影響があるかもしれない。

国務長官にはエクソン・モービルのCEO、レックス・ティラーソンが指名された。トランプと殆ど面識がなかったと言うことで、誰が推挙したのかと疑問が各所から上がっている。極め付きはロシアだと言いきる情報さえある(憶測の根拠は下記経歴)。

レックス・ティラーソンは1952年テキサス生まれで、1975年テキサス大学の土木工学科を卒業後エクソンに入社しており、2001年にはエクソン・モービルのSenior Vice President,2004年にはPresident、2006年にはCEOに就任したエクソン生え抜きの経営者である。

石油利権がらみでロシアのプーチンとの付き合いは古く、1999年にはサハリンで会談をしている。また2013年にはロシアと米国間の友好に尽くしたと、友好勲章を贈られているほどの知露家であり、新露家でもある。叙勲を受ける評価の対象になったのは、ロシアの国営石油会社ロスネフチと行った、北極海・黒海開発における5000億ドルの合併事業である。

また近年では、ウクライナ問題で米国がロシアに科した経済制裁に強く反対している。これは親露家からと言うより、この経済制裁で上記合併事業が中止に追い込まれる事により、エクソンが被る損失被害に対しての、経営者としての当然の要求と考える。

しかしこのような一巨大企業の経営者が、例えCEOの地位を退いたとしても、巧妙にエクソンにとっての、我田引水的な外交展開を行うことは容易に予測が付き、我が国にとっては決して好ましい物ではないと思われる。

トランプと結託して陰に陽に、我が国製造業に取って不利になるような外交政策を採って来る(特にエネルギー政策上)であろう事は必定で、臨機応変にこれらに対抗できる策を前もって練っておく必要がある。



(1月13日に続く)